49.ブッキングで、ミスった!

■輪島功一と輪島直幸■

 

輪島功一さんと云えば、云わずと知れたボクシングの世界チャンピオン。
私の年代だと、「カエル跳び」という技で2回世界チャンピオンに輝いていたその勇姿を、リアルタイムで覚えています。
 

輪島直幸さんは、元NHK『おかあさんといっしょ』の体操のお兄さん。
結構長くやっていたので、30歳前後の人ならかつて「お世話になったはず」ですが、まあ記憶にないでしょう。現在は講演や健康体操の指導をされています。
 

輪島直幸さんがNHKの体操のお兄さんをやめて2年ほど経った頃、ある百貨店のイベントで、体操のお兄さんと歌のお姉さんを呼んで、「子供ショー」のようなものの企画が決まりました。
 

NHK『おかあさんといっしょ』のパクリですね。
テレビに出ている現役のお兄さん、お姉さんを呼ぶのは、NHKのシバリもあり、なかなか面倒なのですが、やめた方なら問題ありません。
さすがNHK、やめた方でも5年ほどは充分に集客が期待できるのです。
 

 *           *            *
 

「輪島直幸さんの電話番号教えて」と同僚に聞くと、「はいよ!」と云って番号を読み上げました。
「×××-××××」私は云われた番号をメモに取り、すぐに電話をかけました。
 

「はい、輪島です」(おっと、本人がでたか!)
「いつもお世話になってます。○○○(会社名)の橘と申します。
実はイベントの件でスケジュール確認のお電話を差し上げました」
「いつ?」と輪島さん。
「都内の百貨店で、□月□日ですが、いかがでしょうか」と私。
 

「その日なら空いているな。で、何をすればいいの?」
「子供たちを相手に、歌ったり、踊ったり、体操を指導したり」
「歌うの?あまりやったことないな」
(あれ?)「歌のお姉さんは別に立てますので、主に体操のお兄さんをやっていただければ」
「体操ねえ・・・。ラジオ体操?」
「(えっ?!)えーと、そうじゃなくて、NHKでやっていたような、いつもの体操でいいのですが」
「俺、NHKでそんなことやっていたっけ?」
(ええっ!!、待てよ、この声は・・・違うぞ!)
「(ヤバイ!)えー、そんな感じなのですが、まー、改めましてもう一度、お電話させていただきます」(ガチャリ)
 

私は「おい、この番号違うぞ!」と、思わず同僚に叫びました。
「オレは元世界チャンピオンに、歌って踊れと云ってしまった!」
「ゴメン、ゴメン」と同僚。「アドレス帳の上下間違えて教えたみたい。ゴメンね」
「どうしよう?」と私。「もう一度電話して、謝るべきだよな」
「そりゃそうだ。世界チャンプに失礼なこと云ったのだから!」と同僚。
 

私は散々逡巡したあげく、謝罪の言葉を口で何度も練習し、ついに決意して、「輪島功一さん」にもう一度電話しました。
 

「申し訳ありません!電話番号を取り違えてしまいました!・・・」
さすが度量の広い世界チャンピオン。輪島さんは快く許して下さいました。
 

■星新一に怒鳴られた!■

 

あるプラネタリウムで、5周年記念として『プラネタリウムで結婚式』の企画が持ち上がりました。
「だれか文化人に監修というか、プロデューサーというか、牧師代わりをしてもらえないかな」とスポンサーがボソリと云いました。
 

「いいですね。作家の星新一さんなんかどうですか?」
「スターホールだから“星新一”?安直だなあ」
「安直ですか・・・」
「でもそれいいね。いただき!さっそく当たって」
という訳で、私は業界に流通しているタレント名鑑で調べて、すぐに電話しました。
 

「はい、星です」と暗い声。(ひょっとして本人!)
私はSF好きで、星新一さんのファンでした。
会社と名前を名乗ったあと、「実は・・・」と趣旨を話し始めました。
 

全部喋り切らないうち、突然、癇癪が破裂しました。
「何を云っているんだ、君は!・・・」
「なぜ、おれがそんなことをしなきゃならないんだ!」
「しなきゃいけないことはないんですが・・・申し訳ありませんでした・・・
済みません・・・失礼しました!」と、私はホウホウノテイで電話を切りました。
 

徹夜明けだったかもしれないし、虫の居所が悪かったのかもしれない。
どちらにしても、私とスポンサーの勝手な思い込みは玉砕しました。
「そりゃそうだ、突然そんなこと云われてもね」と納得。
もちろん、星新一ファンはやめてはいません。
 

     ◇         ◇         ◇
 

イベントでの出演者を決める「ブッキング」という作業は、まず電話でのスケジュール確認から始めます。
通常、タレントや役者さんはどこかのプロダクションに所属しているので、交渉相手はマネージャーです。
 

マネージャー相手なら、断られても、「仮決定」を取り消しても、お互いさほど痛手を感じないものです。ところが「文化人」という枠に括られる「作家」「評論家」「写真家」「大学教授」「漫画家」「スポーツ選手」などは、プロダクションに所属していない場合が多いのです。
 

そうした場合、本人と電話で話すことになるのですが、お互い話しづらいことに遭遇します。とくにお金(ギャランティ)についてはビジネスライクにいきません。