47.チャレランって、すごい!

自分が小学生だった頃のことを、ちょっと思い出してみてください。
 

可愛い盛りの1、2年生ではなくて、「ギャングエイジ」の5、6年生でもなく──。3、4年生ぐらいが適当かな。
 

では、改めて。
 

さあ、あなたは小学校4年生です!たった今、朝教室に着いたところ。
ぐるりと教室を見回してください。誰がいますか?
いつも一緒に遊んでいる仲良しの友達の顔、最近ちょっと仲違をいして、「シカとしている」アイツの顔も見えます。
 

その向こうの廊下側の席に、ひとりぽつんと座っている女の子がいます。
日頃、他の女の子達ともあまり話すこともなく、ちょっと小太りで、おとなしい子です。
勉強も、スポーツも特にできる訳でもなく、まったく目立たない女の子です。
(男の子でもいいのですが。こんな子、クラスに一人や二人いましたよね!)
 

 *           *            *
 

ある日曜日。あなたは家族と一緒に、車に乗って郊外のショッピングセンターに買い物に行きました。そこでは『チャレラン大会』というイベントをやっていました。退屈していたあなたは、家族と分かれて『チャレラン大会』に参加することにしました。
 

受付に並んでいると、列のちょっと先のほうにあの「女の子」がいました。
「この近所に住んでいるのかな」と、ちょっと思いましたが、「あまり口を聞いたこともないし、関係ないや」とあなたは考えました。
 

『チャレラン大会』では5種類の競技が行われていました。
 

1.1分間空き缶積み
~1分間で何個空き缶を積めるかを競う。
 

2.豆つまみ皿移し
~箸を使って、1分間で何個、右の皿から左の皿へダイズ豆を移すことが出来るかを競う。
 

3.洗面器お手玉投げ
~5つの離れた洗面器に5個のお手玉を投げ入れ、各洗面器に書かれた点数の合計を競う。
 

4.傘バランス
~足を閉じた姿勢で片手の人差し指の先にビニール傘の先の部分を立て、何秒間(何分間)姿勢を崩さず傘を立てていられるかを競う。
ほとんどの人が、5~30秒がやっと。
 

5.1分間じゃんけん
~参加者全員で行う競技です。1分間の間に、なるだけ沢山の人とじゃんけんをして、じゃんけんカード(最初に5枚配る)のやり取りをします。
一番たくさんじゃんけんカードを集めた人が勝ち、という偶発性の高い競技。
 

「なんか、単純な競技だな」と最初あなたは思いましたが、やり始めてみると案外夢中になって、すべての競技にチャレンジしました。
 

あなたの成績は、
 

・「1分間空き缶積み」7個・「豆つまみ皿移し」68個
・「洗面器お手玉投げ」200点・「傘バランス」8秒
・「1分間じゃんけん」6枚でした。
 

ちなみに日本記録は、
・「1分間空き缶積み」17個・「豆つまみ皿移し」98個
・「洗面器お手玉投げ」250点・「傘バランス」2時間23分11秒
・「1分間じゃんけん」32枚です。
 

「すごいな」とあなたは思いました。これはみんな、全国の幼稚園生や小学生が出した記録とのこと。
 

『何回でもチャレンジしていいんだよ』と係りのお姉さん。
でも「とてもかなわないや」と、あなたは諦めてしまいました。
 

 *           *            *
 

競技はまだ続いています。
 

ふと見ると、「傘バランス」をやっている場所が、なんだか盛り上がっています。大きな人の輪ができていて、中心にあの「女の子」がぽつんとひとり、傘を逆さに立てて競技を続けています。
 

『ただ今、30分が経過しました!』と司会者が告げます。
 

「30分だって!」あなたは本当にびっくりしました。あなたの記録は8秒。それだってりっぱな記録でした。「一緒にやった大人だって3秒と、もたなかったのに!」
 

『35分、経過!』
 

いつの間にか他の競技はすべて中断していて、みんなあの「女の子」を応援しています。「すごい!」と、あなたは心の中で思いました。
 

地味な子だし、太っているし、可愛いってわけでもなく、髪型だってドングリみたいで変、とずっと思っていました。だけど今、彼女は誰が見ても、確実にヒーローでした!(ヒロイン?)
 

「なんてったっけ、あの子の名前?」
必死に思い出そうとしますが、思いだせません。
 

『40分、経過!がんばれ!』と、司会者が声をかけました。
周りで見ているみんなも「ガンバレ、ガンバレ!」と声援しています。
 

ふとその時、あなたは「女の子」の名前を思い出しました。「さおりさんだ・・・」
 

『45分、経過!!落ち着いて、ガンバレ!』と司会者。
 

「さおりさん、がんばれ・・・」と小さな声でつぶやいてみました。
もちろんこれじゃ声援は届きません。「同じクラスの友達なのに。あんなにがんばっているのに・・・」あなたは自分が何か卑怯なような気がしました。
 

そこで、勇気を出して今度は大きな声で云ってみました。
 

「さおりさん、がんばれ!」「さおりさん、がんばれ~!!!」
 

その時、さおりさんは、あなたの方をチラリと見て、「ふっ」という感じで、力を抜いたようでした。そして一歩足を踏み出し、傘をゆっくりと落としました。
 

「ああ~!」というため息と共に、大きな拍手が周りから湧き起りました。
 

ひたいに薄っすらと汗をかき、ちょっとはにかんで、ぱっと笑みを浮かべた「さおりさん」を、あなたはステキだと思いました。
 

「明日学校でみんなに教えなくちゃ!」
 

     ◇         ◇         ◇
 

本当にあった話はこうです。
 

あるデパートで「チャレラン大会」を実施した際、参加者のひとりの女の子が、閉店間際になっても「傘バランス」をつづけてました。
すでに終わってしまった参加者も固唾を飲んで見守る中、デパートの担当者は、記録を逸するのが惜しく、その会場だけ閉店時間後も明かりを消さず、イベントを続ける手配をしました。
 

でもその女の子は、周りの気配を察して中断してしまったそうです。
 

この時の記録は「45分29秒後藤理さん(岐阜高山小6年~当時)」で、もちろんそこにいた皆から絶大な拍手を受けました。