37.忍者の世界・展について

『世界のカメ展』をやっていた頃から、私は「次は『忍者展』!」と、心に決めていました。子どもの頃、夢中になった横山光輝の『伊賀の影丸』や、テレビの『忍者部隊・月光』、『隠密剣士』が忘れられなかったからです。
 

「展覧会を作る」ということは、映画を1本撮るようなもの。
 

ゼロから始めて、段々と形にしていき、出来上がったものを、お客さんを集めて見ていただく・・・。興行的な部分もあり、失敗すれば打撃を受けます。
 

でも、夢を実現するという機会は、めったにあるものではありません。その時、私は「機会」を与えられました。
「やってみろ!」と、当時所属していた会社の社長と、会場側であるいくつかの百貨店担当者から、エールを送られました。発奮しないわけがありません。
 

想定される第1回目の『忍者展』開催まで、あと8ヶ月といったところで、私は伊賀と甲賀に、取材、及び交渉のための旅に出ることにしました。インターネットがない時代でしたので、下調べのための資料といっても、ほんの限られたものしかありませんでした。
 

私が一番熟読したのは、学研から出ていた『忍術・手品のふしぎ』という子供向けの本です。一番の観客として想定される、子どもの視点を知るためには、もってこいの参考書でした。
 

     ◇         ◇         ◇
 

『忍者展』ではどうしても、展覧会の原則である“ホンモノ”を展示する、ということが出来ません。“ホンモノ”のない展覧会に、どうやってお客様を呼び込むか、それが大きな課題でした。
 

≪『忍者展』だからって、本物を展示できないと決まった訳じゃない!≫と知恵を付けてくれた人がいました。
「何を展示するんです?」
≪古文書を展示すればいいんじゃよ≫(ダレだ、お前は?)
「古文書?」
≪『万川集海』(ばんせんしゅうかい)という古書がある。謂わば忍者が口にくわえて、“ドロンドロン”とやる、アレだな≫
 

「巻物ですか!?そんなもの、残っているんですか?」
≪残っているとも。国会図書館に1巻あるほか、「大原本」とか「ナントカ本」とか、確か3巻は現存している筈じゃよ。それを持って来ればよい!≫
 

カメ仙人か、○○白雲斎と話している気になってしまいましたが、実際は歴史を趣味としている物知りのおじさんでした。
その気になって、突っ込んでよくよく聞いてみると、『万川集海』は、残念ながら「巻物」ではありませんでした。全22冊の、和綴じ本とのこと。
 

ほかにも『正忍記』や、服部半蔵が著したと伝えられる(ウソっぽい!)『忍秘伝』という本が現存していると、その後資料を読んで知りました。
 

「どれかひとつでも、持ってくることが出来れば、“ホンモノ”の展覧会になる!」と、私は考えました。そして「なにがなんでも!」と、ちょっと悲壮な覚悟で、伊賀・甲賀への旅に出発したのでした。