23.劇場イベント

たまに小屋(劇場)を使うイベントをすると、開場直前になって、急に胸がドキドキすることがあります。「そうか、そうだった・・・」と昔の記憶がよみがえります。
 

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お客様が着席を終え、開演時間5分前になると「1ベル」を鳴らす指示を出します。
『ハイ、1ベル、よろしく』→「ビーーー」と味気ないベルの音(ブザー音)。途端に心臓がバクバクし始めます。“なにか、忘れていることはなかったっけ?”と、
私はあせった頭を急回転させて自問自答を始めます。
 

控え室に通じるインカムで、出演者に『スタンバイ、よろしくお願いします』と呼びかけ、すぐに根拠のない不安を覚え、“アレッ?みんな居たよな。居たっけ?”そう思ったが最後、サァーっと血の気が引きます。“大丈夫、大丈夫。すべて手を打って、今もそれぞれの部署にスタッフが付いているのだから”と、自分の気持ちをなだめます。
 

ついに開演時間となり、『では、2ベル参ります』→※「ビーーー」。場内が急に「水を討ったように」静まりかえり、“もうダメだ!なるようになれっ!”と、私は覚悟を決めます。
 

2ベルが鳴り終わると、『客電アウト、お願いします』。客席の明かりがゆっくりと消えていき、ついに暗転。
『ハイ、緞帳上げて』と※1.5秒置いて指示を出します。私の“しびれるようなスリル”は※緞帳を上げるまでがピークで、あとは憑き物が落ちたように不安はキレイに消え去ります。
 

予定通りにイベントが始まり、スタッフの協力により何の事故も起こらず、特に指示することもなく、時間通りに終了を迎えます。後は打ち上げの心配をするだけ。
 

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※「ビーーー」ではなくて、「チャイム」のベルの小屋もありますが、私の好みは「無慈悲な」ブザー音です。緊迫感がみなぎりますから!
※「1.5秒」というのは特に決まりはないので、あくまでディレクターの、これまた好みです。私は2秒じゃ長すぎると感じるタイプです。
 

※「緞帳」とは「劇場幕」のこと。緞帳が上るスピードは、劇場によっては数パターンあることがあります。ゆっくり上るのは演歌などのコンサート向き。芝居の演出家である蜷川幸雄さんは、「早ければ早いほど」よいようです。(日生劇場の緞帳のスピードを改修させたとか?!)
 

歌舞伎の手法で「振り落とし」という幕の開け方があって、これはヒモで吊った薄い幕を、開演と同時にヒモの両端を解いて舞台上に落とし、黒子がサッと舞台袖に引き込むものです。観客からは、舞台を隠していた幕が一瞬にして消え、華やかなセットが目の前に広がります。蜷川さんは好んでこの手法をよく使いました。
 

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まったく、劇場に向かないディレクターだ、私は!
「緞帳を開ける」というやり方でなく、最初からステージを見せているものだと、ドキドキするということなどないのです。その原因ははっきりしていて、それは私が学生時代、芝居をしていたから。劇場というものに特別の思い入れがあるからなのです。
 

試写会、講演会、ファッションショーなど、劇場を使うイベントを、私はそんなに頻繁にはやってないので、どうにか身が持ちます。だけどたまにはそうした仕事が入らないかと、“てぐすねひいて”待ち構えてもいるのです。